トップページ最新号紹介バックナンバー紹介オンラインショップ『風の旅人』について

『風の旅人』 40号

FIND the ROOT 彼岸と此岸

二つの時間/境の旅

人は、世界を観察し、自分の行為を観察しながら、
世界と自分との関係を知ろうとして言葉を作り出した。
宇宙の仕組み、死後の世界、未来などの不可視のものでさえ、
人は、言葉の力で目に見えるものにして、
自分との関係を安定させたいと願っている。

人は、わからないことがあると不安になる。
不安から逃れるために、人の各種の精神活動が発生する。
それでもわからず、不安と怖れに耐えられなくなる時、
人は、自分に都合の良い場所を決めて閉じこもり、
自己防衛のために、言葉を使うこともある。

不安や怖れをかなぐり捨てて、可能性の果てへの旅に出る人は、
世界や、自分の行為を観察しながら、
自分の言葉を編集し続け、
常に捉え難い何ものかに苛まれながら、
言葉が要求するベクトルの延長線上に、運命を切り開こうとする。

言葉は、人をどのようにも導けるが、言葉の中に正しい答えはない。
言葉は、人と世界の無限の関係から次々と生まれる波のようなもの。
わかる領域と、わからない領域の波打ち際で、次々と砕けては消える
言葉の揺籃のなかで、人の意識は育まれていき、
人としての在りようを、何度でも崩し、何度でも作りなおしていく。

どんな人も、世界と自分との関係を探る言葉のベクトルの延長線上に、
生きるに値する何かを必死に求めている。
今生に困難が増えると、手近なもので自らを安定させようとするが、
世界を観察し自分の行為を観察し続ける人は、言葉の力で自分を導き、
時空を超えて連続する関係のなかで、永遠に生き続けることになる。



編集長 佐伯剛



©安井仲治

※下に紹介している写真は誌面全体のごく一部です。

磁力の表情

©安井仲治

© 安井仲治

© 安井仲治

天と地のあいだ〜ロダンの夢〜

© 細江英公

© 細江英公

© 細江英公

ふるさと

© 荻野NAO之

© 荻野NAO之

© 荻野NAO之

Next ≫

↑ ページの先頭へ戻る

※掲載写真の印刷物への使用は法律で禁止されています。

vol.39 2010年2月発行

定価 ¥1,200(税込)
全165ページ 30×23cm

【 表紙・裏表紙 】

表紙写真/安井仲治・裏表紙写真/北義昭

【 写真 】

【 文章 】

     


 春風の花を散らすと見る夢は  さめても胸のさわぐなりけり 西行

 定義すると、可能性の極限とは次のような地点のことだ。
 すなわち、一人の人間が、存在のなかで自分にも理解しかねる立場に置かれていても、まやかしと恐れをかなぐり捨てて、もうこれ以上先へ行ける可能性が思い描けないほど遠くへ進んでいく、そんな地点のことなのである。

 不安のない知性の純粋な活動といったものを想像してみたところで(哲学はそういう袋小路に閉じこもっているのだが)、どんなに空しいか言うまでもないだろう。
 不安は、知性に劣らず、認識の手段なのであり、他方で可能性の極限は生であると同時に認識であるのだ。
 そして交わるということは、不安と同様に、生きかつ認識するということなのである。

 可能性の極限は、笑いを、恍惚を、死への恐怖に満ちた接近を、予想させる。さらに錯誤と嘔吐も予想される。可能性と不可能性の間の絶え間ない動揺も予想される。